美容医療クリニックの開業・経営にあたって、医療分野の法律には注意を払っていても、美容医療に関する特定商取引法の関係まで意識が及んでいないケースが見受けられます。
しかし、美容医療サービスの中には特定商取引法(略称:特商法)の厳しい規制対象となるものがあり、「知らなかった」では済まされない重要なポイントです。
本記事では、美容クリニック経営者・開業予定者の方向けに、美容医療を提供する際に注意すべき特定商取引法上の規制について、実務的かつ堅めの文体で解説します。
特商法の対象となる美容医療サービスの範囲から、必要な書面の準備、クーリングオフ等の消費者保護制度、そしてコンプライアンス対応における行政書士のサポートまで、順を追って確認しましょう。
美容医療と特定商取引法の関係
特定継続的役務提供の定義と美容医療との関連性
特定商取引法が規制する取引類型の一つに「特定継続的役務提供」があります。
これは、政令で指定された特定のサービス(役務)を長期間かつ継続的に提供し、事業者に一定金額を超える料金を支払ってもらう取引を指します。
エステティックサロンや語学教室などが典型例ですが、平成29年の法改正により美容医療も新たに特定継続的役務提供の対象に追加されました。美容を目的とした医療行為であっても、コース施術や一定期間の継続治療として提供されるものは、特商法の規制を受けることになります。
背景には、医療脱毛や美肌治療など美容医療分野でも高額な長期契約による消費者トラブルが増加したことがあり、こうしたトラブル防止のため法律による消費者保護が図られています。
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>特定継続的役務提供
適用対象となる施術の具体例(例:脱毛・フェイシャル等)
特商法の特定継続的役務提供として規制される美容医療サービスは、施行令によって次の5種類が指定されています。
- 医療脱毛(レーザー脱毛・ニードル脱毛等)
- フェイシャル(シミ・にきび等の皮膚治療)(レーザー治療、光・音波機器による施術、ケミカルピーリングなど)
- しわ・たるみの軽減(ヒアルロン酸注射、糸によるリフトアップ等)
- 脂肪の減少(脂肪溶解注射、脂肪冷却機器による痩身治療など)
- 歯の漂白(歯科ホワイトニング)
これらはいずれも美容目的で行われる自由診療(保険適用外治療)であり、エステサロンの施術と同様に効果には個人差があるため契約後のトラブルが生じやすい分野です。美容医療特定商取引法の規制対象は以上のような施術に限定されており、逆に言えば、美容外科手術など上記に該当しない施術や短期間・低額の治療契約は特商法の対象外となります。
規制対象となる条件(期間・料金など)
上記の美容医療サービスであっても、すべての契約が特商法の規制対象になるわけではありません。法律上は、契約期間が1ヶ月を超え、かつ契約金額が5万円を超える場合に特定継続的役務提供として規制の対象となります。
例えば、6ヶ月間にわたる脱毛コースで総額数十万円の契約を締結するケースは明確に該当します。一方で、1回限りの施術契約や1ヶ月以内の短期コース、総額5万円以下の契約であれば特商法の適用外です。ただし、表面上は1回ごとの契約に分ける手法で規制を免れようとした場合でも、実質的に患者に継続利用を強いるような販売実態があれば一体の契約とみなされる可能性があります。
そのため、「コースではなく都度払いだから特商法は関係ない」と安易に考えるのは危険です。期間や金額の要件を満たす美容医療サービスを提供する際は、特定商取引法の規制対象となることを念頭に置き、適切な対応を取る必要があります。
美容医療の提供において特定商取引法に基づき必要となる書面
概要書面に記載すべき事項(提供内容、料金、提供期間等)
特定商取引法に基づく法定書面として、契約前には「概要書面」を交付する義務があります。概要書面とは、契約しようとするサービスの内容や契約条件を消費者に事前に示すための書面です。概要書面には、提供する美容医療サービスの内容(施術の種類や方法)、役務提供期間(契約期間・回数)、対価の総額やその内訳・支払方法(施術料金の総額と支払い時期・方法)など契約の重要事項を網羅した情報を記載する必要があります。
例えば、クリニックの名称・住所・電話番号等の事業者情報や、コース内容・期間・回数、総額費用とその支払条件、クーリングオフ・中途解約などといった点が明示されていなければなりません。概要書面を患者に渡し十分に読んでもらうことで、契約内容について誤解なく理解・納得した上で契約を検討してもらうことができます。
契約書面に記載すべき事項(クーリングオフの説明、解約条件など)
契約が成立した際には、直ちに「契約書面」を交付する義務があります。契約書面は正式な契約内容を示す書面であり、概要書面に記載した事項に加えて契約成立日時や担当者名等も含め、契約内容を確定的に記載します。
特に重要なのが、消費者保護のための契約解除に関する事項です。契約書面には、契約後8日間のクーリングオフが可能であること、その行使方法(書面等による通知)、およびクーリングオフ期間経過後でも中途解約ができる旨とその条件を明示する必要があります。
例えば「契約日から8日以内であれば無条件で契約解除(クーリングオフ)できます」「サービス提供開始後でも途中解約可能だが所定の違約金が発生します」といった文言を盛り込み、解約条件を利用者に分かりやすく説明しなくてはなりません。また、契約書面にはクリニックの名称・住所等の事業者情報や契約日も記載され、契約当事者双方の認識を一致させる役割を果たします。
書面交付のタイミングと注意点
概要書面はあくまで契約前、顧客を勧誘する段階で事前に交付しなければなりません。契約書面は契約締結時に速やかに交付します。これら法定書面の交付を怠ったり、記載すべき事項に不備があると、契約自体の効力にも影響し得るため注意が必要です。
例えば、適切な書面交付が行われなかった場合、クーリングオフ期間を過ぎていても消費者から契約の取消・全額返金を求められるリスクがあります。また、行政から業務改善指示や業務停止命令等の厳しい処分を受ける可能性も否定できません。
実際に特商法の書面には記載事項だけでなく字体の大きさや記載方法まで細かな規定があります。たとえば契約書面ではクーリングオフに関する注意書きを赤枠・赤字で明示し、文字サイズも8ポイント以上とすることが求められています。
法律の定めるタイミングで正しい内容の書面を交付し、相手方にしっかり確認してもらうことが、美容医療サービス提供者の重要な遵守事項となります。
美容医療契約の特定商取引法に基づくクーリングオフと中途解約の制度
クーリングオフの適用条件と期間
特定商取引法の特定継続的役務提供に該当する美容医療契約では、契約書面を受け取った日を含め8日以内であれば、消費者は書面による意思表示で契約を解除(クーリングオフ)することが可能です。
クーリングオフは無条件・無償で行使でき、クリニック側は解約に伴う損害賠償や違約金を請求できません。たとえ契約代金をすでに受領していても、全額返金に応じる必要があります。期間内であれば消費者は理由を問わず一方的に契約解除できるため、高額なコース契約を急いで締結してしまった場合でも救済措置が用意されているわけです。
クリニックとしては、この8日間は契約が不確定なものとして扱われる点に留意し、クーリングオフの権利を顧客に確実に伝達する義務があります。
中途解約時の返金・損害賠償の取扱い
クーリングオフ期間(8日間)を過ぎても、サービス提供期間中であれば消費者は契約の中途解約(途中解約)を行うことができます。中途解約に特別な理由は不要で、消費者から解約の申し出があれば契約解除自体は有効となります。
ただし、事業者側は提供済みサービスの対価や一定の違約金を請求することが認められます。その上限額も法律で定められており、消費者に過度の負担がかからないよう制限されています。具体的には、サービスを一度も受けていない状態で解約する場合は2万円、サービス提供開始後に解約する場合は残りの役務に対応する代金の20%相当額または5万円のいずれか低い額を上限とした解約手数料のみ請求可能です。
加えて、提供済みの施術に対する対価(既に受けた分の料金)は返金対象外となります。例えば、総額60万円・10回コースの契約で3回(18万円相当)利用後に解約する場合、事業者が請求できるのは提供済み3回分の18万円に加え、残り7回分の料金42万円の20%である8万4千円(ただし、5万円との比較で低い方なので「5万円」)までという計算になります。これらの制限は法律によるもので、消費者に一方的な不利益が生じないよう保護する趣旨です。クリニック側は、あらかじめ契約書面で定めた範囲内の正当な解約料しか請求できない点を理解しておきましょう。
トラブル防止のための書面整備と説明義務
クーリングオフや中途解約の制度があるとはいえ、実際にそれが行使されればクリニック側にとって売上計画の変更や事務手続きが発生します。こうしたトラブルを未然に防ぐためにも、契約時の書面整備と説明義務の徹底が重要です。法定の概要書面・契約書面を適切に整備し、施術内容・料金体系・解約ルール等の重要事項を事前に書面で明確に示すことは、患者との認識齟齬を防ぐ上で有効です。
特にクーリングオフ可能であることや中途解約時の条件については、書面交付に加えて口頭でも丁寧に説明し、患者様に十分理解・納得いただくよう努めましょう。(口頭説明義務)契約前の説明段階で疑問や不安を解消しておけば、不本意な契約解除に至るケースも減らせます。書面と説明による十分な事前説明を尽くすことが、消費者とのトラブル防止に直結すると言えるでしょう。
美容医療契約に要する書面と行政書士によるサポート
書面作成の専門的支援(概要書面・契約書面)
上述のとおり、美容医療サービスが特定継続的役務提供に該当する場合、クリニックは特商法に対応した概要書面および契約書面を整備しなくてはなりません。しかし、法定記載事項は多岐にわたり、書面の形式にも細かな決まりがあります。
自社だけで一から適法な書式を作成するのは困難であり、時間も労力も要するでしょう。そこで頼りになるのが行政書士による専門的サポートです。特定商取引法や消費者保護ルールに精通した行政書士であれば、クリニックが準備すべき概要書面・契約書面の作成を代行したり、適切なひな形を提供したりすることが可能です。
実際に多くのエステサロンや美容クリニックが、開業前に行政書士の支援を受けて必要書面を整備しています。専門家に依頼することで、法律の要件を満たした書面を漏れなく用意でき、後々の不備指摘や書面不交付によるトラブルを未然に防ぐことができます。
実務に沿った法的アドバイスとコンプライアンス強化
行政書士は書面作成だけでなく、実務面での法的アドバイスを行うことで美容クリニックのコンプライアンス体制を強化してくれます。例えば、契約時のオペレーションに組み込むべき法定書面の交付手順や、スタッフによる重要事項説明のポイントについて指導を受ければ、現場できちんと法律を遵守した対応が取れるようになります。
さらに、特定商取引法は改正もあり得る法律です。実際に2023年の改正では法定書面の電子交付(電子データによる提供)が可能になるなど、新たな対応が求められています。行政書士はこうした最新の法改正動向も踏まえてサポートしてくれるため、常に最新の法令遵守を実現できます。専門家によるアドバイスを受けることで、「知らないうちに法律違反をしていた」という事態を防ぎ、安心して美容医療サービスの提供に専念できる環境を整えられます。
特定商取引法に違反した場合のリスクと行政処分
特定商取引法違反に対する行政処分の種類
特定商取引法に違反した場合、消費者庁や都道府県知事から様々な行政処分が科される可能性があります。代表的な処分としては、業務改善指示、業務停止命令、さらには再発防止のための命令などがあります。特定商取引法に違反した場合、消費者庁や都道府県知事から様々な行政処分が科される可能性があります。
代表的な処分としては、業務改善指示、業務停止命令、さらには再発防止のための命令などがあります。たとえば、法定書面の不交付や虚偽記載が発覚した場合、まずは業務改善指示が出され、それでも改善されない場合には業務停止命令が下されることもあります。特に美容医療の分野では、社会的信頼性が重要なため、一度行政処分を受ければ経営への影響は甚大です。
事業者が負う民事上の責任
特商法違反によって無効となった契約は、消費者の請求により解除され、支払済みの金銭については返金義務が発生します。また、説明義務違反や不当な勧誘行為があった場合には、消費者から損害賠償を請求されるケースも少なくありません。美容医療サービスでは高額な契約が多く、契約無効や損害賠償の対象となれば、多額の返金負担や訴訟リスクを抱えることになります。
事前対策としてのコンプライアンス体制の重要性
こうしたリスクを避けるためには、特定商取引法の規定を正確に理解し、実務に落とし込む体制づくりが欠かせません。具体的には、契約書類の定期的な見直し、スタッフ研修による説明対応力の向上、クレーム対応マニュアルの整備などが挙げられます。さらに、行政書士などの専門家と連携し、常に法令に適合した運営を行うことが、安全かつ持続可能な美容医療経営のカギとなるでしょう。
以上のように、美容医療特定商取引法の理解と実践は、単なる書類整備の問題にとどまらず、経営リスクの管理という側面からも極めて重要です。
美容医療契約による概要・契約書面の作成はお任せください
特定商取引法に基づく概要書面や契約書面の作成には、法律で定められた厳格な様式や記載内容の遵守が求められます。一見シンプルに見える書類であっても、実は記載すべき事項が多岐にわたり、表現方法にも法的ルールがあるため、独自に作成するには限界があります。
そこでおすすめしたいのが、行政書士による書面作成のサポートです。行政書士は、特定商取引法の規制に精通しており、美容医療サービスに適した内容と構成で、法定記載事項をすべて網羅した正確な書面を作成いたします。
さらに、実務に沿った運用方法のアドバイスや電子契約対応の可否など、開業準備から運営開始後のサポートまで柔軟に対応可能です。コンプライアンスの確保は、美容医療の信頼構築に直結します。書面作成に不安がある方や、開業にあたり法的整備を進めたい方は、ぜひ行政書士にご相談ください。全国対応でサポートしております。
当事務所に依頼する3つのメリット
- 法定記載事項を網羅した正確な書面が作成できる
特定商取引法に基づく概要書面および契約書面には、記載しなければならない法定項目が詳細に定められており、記載漏れや形式不備があると契約無効や行政処分のリスクも生じます。当行政書士事務所に依頼することで、こうした複雑な要件をすべて満たした正確な書類を作成してもらえるため、安心して運用できます。 - 実務に沿った運用指導が受けられる
概要書面や契約書面は「作成して終わり」ではなく、どの段階で、どのように交付し、何を説明すべきかといった実務運用が極めて重要です。当行政書士事務所は、実際のクリニック業務の流れに即して、説明する用語内容や、契約締結の手順などを詳しく説明しますので、違反リスクの少ない運営が可能となります。 - 最新の法改正や実務動向に対応できる
特定商取引法は定期的に改正が行われており、例えば近年では書面交付の電子化が一部認められるようになるなど、事業者側に求められる対応も変化しています。行政書士はこうした法改正にも精通しているため、時代に合った内容の書類整備や契約運用が可能になります。自力では見落としがちな法的変更点にも素早く対応できるため、常に適法な状態を維持するうえでの強力な支援となります。
料金表
当サービスの費用は明瞭な定額制となっております。
内容 | 料金 | 詳細 |
⑴概要書面・契約書面の作成 ⑵契約手順の説明書 | 55,000円 | 事前相談からヒアリング、書類の作成・納品までの一連のサービス費用が含まれています。追加料金なしで、2種類の書面を一括して作成いたします。t契約の手順書もお付けします。 |
選択プラン | ||
⑶電子交付対応 | 11,000円 | 電子交付対応では、書面をWord文書で提供し、サービス利用者への電子交付に必要な同意取得の方法や手順についてアドバイスいたします。 |
※上記料金以外に、特殊なご要望や追加の書類作成が発生しない限り、基本的に追加費用はございません。
手続きの流れ
当事務所へのご依頼から書類お渡しまでの一般的な流れをご説明します。初めての方でも安心してご利用いただけるよう、丁寧に対応いたします。
- お問い合わせ・ご相談
まずはお問い合わせフォームやお電話等でお気軽にご相談ください。業種や事業内容、ご依頼の概要をお伺いします(この段階では費用はかかりません)。 - お見積りのご提示
ヒアリングした内容にもとづき、正式にサービス提供する場合の費用のお見積りを提示いたします。基本的には前述の定額料金ですが、もし特殊な事情で追加料金が生じる場合はこの時点でご説明します。お見積りにご納得いただいた上で正式にご依頼ください。 - 契約締結
当事務所にて委任契約書を作成し、電子形式で締結していただきます。 - 追加質問のお伺い
書面作成に必要な事項について詳しくお伺いします。サービスの内容・特徴、提供条件、料金体系、契約条件(解約条件や返金規定等)などをメールにてお伺いいたします。 - 書類の作成
お伺いした内容を踏まえて、概要書面および契約書面を作成します。法律用語が多く難解になりすぎないよう配慮しつつ、法定事項を漏れなく盛り込んだ書類案を作成いたします。通常、1週間程度でドラフト(下書き)をご用意し、一度内容をご確認いただきます。ご要望に応じて修正を加え、最終版を完成させます。 - 書類の納品
完成した書類を納品いたします。基本的には電子データ(Word文書やPDFなど)でお渡しいたしますので、お客様の方で必要部数を印刷してご利用いただけます。また、納品後の運用方法についてもご不明点があれば納品から1か月はサポートいたします。作成した書類を実際にお客様が顧客に交付する際の手順や留意点などについてもご説明できますので、安心してご利用いただけます。
以上がご依頼から納品までの基本的な流れです。不明点がございましたら各段階で遠慮なくご質問ください。当事務所が責任を持ってサポートいたします。
お問い合わせ
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