2022.10.13
公正証書遺言は撤回できる?4つの方法と無効リスク回避ポイント
この記事では、公正証書遺言書を作成した後に、遺言書の内容を変更したい場合や、遺言書自体を撤回させたい場合にはどのような手続きを経る必要があるのかについて解説いたします。
そもそも公正証書遺言書とはなにか
公正証書遺言とは、公証人と証人2名以上の立会いによって作成される遺言書です。その特徴として、遺言者の死後に検認手続を経る必要が無いことや、公証人によって作成されるためほぼ確実に有効な遺言書を残すことができることが挙げられます。公正証書遺言を作りたい場合には最低限、下記2点は抑えておきましょう。
公証役場等で公証人によって作成される
公正証書は公証人によってのみ作成されます。なお、公正証書を作成するためには公証人手数料(約3万円~6万円程度)を支払わなければいけません。この公証人手数料は公正証書に記載する目的価格等によって変動があります。
公正証書遺言は証人2名以上必要
公正証書遺言を作成するには、公証人によって作成された遺言書を遺言者本人と証人2名以上(実務上は2名)の前で内容を確認しながら作成しなくてはいけません。
公正証書遺言の撤回や変更について
公正証書によって作成された遺言書を撤回や変更(以下「撤回等」という。)することはできるのでしょうか?
結論として、公正証書遺言書を撤回等を行うことは可能です。ただし、この撤回等を行うには、既に作成した公正証書遺言を撤回や変更の手続をするのではなく、新しく遺言書を作成することによって行います。これは公正証書遺言書の場合に限りません。例えば、自筆証書遺言書を先月に作成し、翌月に撤回等を行いたい場合には、新しく遺言書を作ることで前回に作った内容を撤回等をすることができます。ただし自筆証書遺言書の場合、確実に前回の遺言書を撤回させるために、実務上は遺言書を破棄してから新たに作成するケースが多いです。ちなみに公正証書遺言書の場合は、手元の正本を破棄しても原本は公証役場にて保管されるため、意味がありません。(※1)
※1詳しく解説
【自筆証書遺言書の場合】
自分1人で作成できるので、遺言書を作成しても誰かに見られることはありません。そのため、遺言書を破棄するもしないも、自分次第ということです。
【公正証書遺言書の場合】
公正証書遺言書は公証人によって作成され、作成後、原本が公証役場に保管されます。そのため、受け取った公正証書遺言書の正本を破棄しても、公証役場に原本があるので、意味がないということです。つまり公証役場に「前回の遺言書を撤回したいので保管している遺言書を破棄してください」ということはできないので、新しく作成する必要があるのです。
自筆証書遺言書の撤回や変更
- 前の遺言書を完全に破棄する
- 前の遺言書を撤回する旨の遺言書を新しく作成する
- 前の遺言書と抵触する内容の遺言書を新しく作成する
- 遺言書に記載の財産の処分を行う
公正証書遺言書の撤回や変更
- 前の遺言書を撤回する旨の遺言書を新しく作成する
- 前の遺言書と抵触する内容の遺言書を新しく作成する
- 遺言書に記載の財産の処分を行う
※公正証書遺言書は遺言書の破棄(破って捨てる等)では撤回等を行うことができません。
以下が、撤回の方法に関する補足や詳細です。
前の遺言書を完全に破棄する
遺言書を破棄することで自分の死後にその遺言書が相続人に確認されることはありません。この遺言書自体の破棄をする方法は自筆証書遺言書のみ利用できます。
前の遺言書を撤回する旨の遺言書を新しく作る
前の遺言書は、新しく作成する遺言書に前の遺言書を撤回する旨を記載することで撤回することができます。撤回する旨の記載例は以下です。
第○条(遺言書の撤回) 遺言者は、令和○年○月○日に本町公証役場の公証人○○○○によって作成された第○号の公正証書遺言を全部撤回する。
前の遺言書と抵触する内容の遺言書を新しく作成する
前の遺言書の内容と、新しい遺言書の内容が抵触する部分がある場合には遺言書は新しく作成された遺言書の内容が優先されます。なお、遺言書の作成方法に優劣は無いので例え最初に公正証書遺言書を作成しており、後に自筆証書遺言書を作成した場合、遺言書内容に抵触がある場合には自筆証書遺言書の内容が優先されるということです。
以下が遺言書の内容の抵触例です。このケースでは、預貯金の相続人は最終的に長男・太郎となります。
遺言書に記載の財産の処分を行う
遺言書に記載した財産であったとしても、遺言者は生前にその財産を譲渡することも売買することも可能です。なぜなら遺言書は遺言者が亡くなった後に効力を有するものであり、遺言者の財産の処分権限を縛るものではないからです。
つまり、遺言者が生前に作成した遺言書に「遺言者は不動産を長男・太郎に相続させる」と記載していたとしても、遺言者が亡くなるまでにその不動産の売却を行うこともできます。そのため、相続時に遺言書には不動産の記載があるのにも関わらず、相続の際には不動産の名義が遺言者ではないといったこともあります。このように遺言書に記載していた財産を処分することによる遺言書の撤回を「財産処分による撤回擬制」といいます。この場合、もちろん長男・太郎は不動産を相続することはできません。
公正証書遺言の撤回等の質問事項
Q.遺言書の変更や撤回には回数に上限があるの
遺言書の変更や撤回を行う回数について法律上の制限はありません。ただし、自筆証書遺言書のような本人のみで作成される遺言書の場合には、あまりに生前に遺言書の撤回等が多いようであれば、その遺言によって不利益を受ける相続人から遺言の法的有効性を怪しまれてしまう場合があります。そのため自筆証書遺言書の撤回等を行う場合には、前の遺言書を残さずに破棄してから新たに作成する方が良いでしょう。
民法1022条(遺言の撤回) 遺言者は、いつでも、遺言の方式に従って、その遺言の全部又は一部を撤回することができる。