婚前契約書 不貞行為
婚前契約書では、不貞行為をしないこと、違反した場合の慰謝料や違約金、夫婦間のルールなどを定めることができます。ただし、内容が不合理に高額であったり、一方に過度な負担を課す場合は、効力が問題になることがあります。
この記事では、婚前契約書で不貞行為を防げるのか、違約金や慰謝料を定められるのか、公正証書にする意味はあるのかを、行政書士事務所の実務目線で解説します。
この記事で分かること
婚前契約書とは

婚前契約書とは、結婚前の男女が、結婚後の生活や財産関係、離婚時の取り決めなどについてあらかじめ合意し、書面化しておく契約書です。
欧米では「プレナップ契約(Prenuptial Agreement)」とも呼ばれ、資産を保有している方や再婚予定者、事業経営者などを中心に利用されています。
婚前契約書では、生活費の負担方法や家事分担、不貞行為があった場合の取り決めのほか、夫婦の財産関係について定めることもできます。
特に法律上は、夫婦の財産について「特有財産」「共有財産」「合有財産」などの扱いを定めることができ、その内容は夫婦財産契約として登記することも可能です。
夫婦財産契約とは、民法上認められている制度であり、婚姻前に締結した財産に関する契約を法務局で登記することができます。
ただし、実際に登記まで行われるケースは多くありません。
本来、婚前契約書は不貞行為への備えだけでなく、財産管理や資産承継のルールを明確にする目的で利用されることが多く、海外では著名な経営者や芸能人などが締結していることでも知られています。
近年の日本でも、再婚や事業承継、多額の資産を保有している場合などに、将来のトラブルを防ぐため婚前契約書を作成するケースが増えています。
婚前契約書に不貞行為の条項を入れることはできるのか
結論として、婚前契約書に不貞行為の禁止条項を入れることは可能です。
たとえば、「配偶者以外の者と性的関係を持たない」「不倫関係を継続しない」「不貞行為が発覚した場合は誠実に協議する」といった内容です。
ただし、どのような行為を不貞行為とするのかを明確にしておく必要があります。あいまいな表現では、後日トラブルになった際に解釈が分かれるためです。
「浮気をしない」とだけ書くよりも、禁止する行為を具体的に定めることが重要です。
婚前契約書で定められる不貞行為の内容
婚前契約書では、不貞行為そのものだけでなく、不貞行為に近い行動についても一定のルールを設けることがあります。
不倫
不倫とは、一般的には配偶者以外の相手と男女関係を持つことをいいます。婚前契約書では、配偶者以外の者と性的関係を持たない旨を定めることが多いです。
浮気
浮気は、不倫よりも広い意味で使われます。食事、頻繁な連絡、親密な交際など、人によって受け止め方が異なります。
そのため、婚前契約書で浮気を定める場合は、どの行為を禁止するのかを具体化する必要があります。
異性との宿泊
配偶者以外の異性と宿泊する行為は、不貞行為の疑いを生じさせやすい行為です。業務上やむを得ない場合を除き、異性との宿泊を禁止する条項を入れることがあります。
マッチングアプリ利用
近年は、結婚後のマッチングアプリ利用をめぐる相談も増えています。婚前契約書では、結婚後に出会い目的のアプリを利用しない旨を定めることができます。
SNSでの不適切な交流
SNSでの親密なメッセージ、秘密のやり取り、異性との継続的な交流が問題になることもあります。
ただし、すべての交流を禁止すると行き過ぎになる可能性があります。禁止する範囲は、現実的に定めることが大切です。
不貞行為があった場合の違約金は有効か
婚前契約書では、不貞行為があった場合の違約金を定めることがあります。
もっとも、金額が高すぎる場合や、一方的に不利な内容の場合は、後日その効力が争われる可能性があります。
違約金条項の考え方
違約金とは、契約違反があった場合に支払う金銭をあらかじめ定めるものです。
不貞行為について違約金を定める場合は、夫婦間の信頼関係を守る目的で、合理的な範囲にとどめる必要があります。
高額すぎる違約金のリスク
たとえば、不貞行為1回につき数千万円など、実態に比べて過度に高額な違約金は問題になりやすいです。
公序良俗に反すると判断されると、全部または一部が無効とされる可能性があります。
裁判になった場合
裁判になった場合、契約書の文言だけでなく、作成時の事情、双方の理解、金額の相当性、不貞行為の内容などが考慮されます。
そのため、単に厳しい条項を入れるのではなく、実際に使える内容に整えることが重要です。
婚前契約書作成サポートのご案内
不貞行為、浮気、不倫、再婚、財産管理に不安がある方へ。行政書士が、事情に合わせた婚前契約書の作成をサポートします。
婚前契約書で慰謝料を定めることはできるのか
婚前契約書では、不貞行為があった場合の慰謝料や損害賠償について、あらかじめ取り決めておくことができます。
特に、不貞行為が発覚した場合に一定額を支払う旨を定める場合は、「慰謝料」というよりも、「損害賠償額の予定」として定めるケースがあります。
あらかじめ支払額を定めておくことで、将来、不貞行為が発覚した際の協議や紛争の長期化を防ぐ効果が期待できます。
もっとも、婚前契約書に金額を記載したからといって、常にその全額が認められるとは限りません。
金額が著しく高額である場合や、契約締結の経緯に問題がある場合には、裁判所がその有効性を慎重に判断する可能性があります。
不貞行為があった場合の支払額を定める際は、「慰謝料」として定めるだけでなく、「損害賠償額の予定」として合理的な金額を設定し、対象となる行為を具体的に記載することが重要です。
婚前契約書を公正証書にするメリット

婚前契約書は、私文書として作成することもできます。しかし、将来の紛争予防や証拠保全の観点から、公正証書として作成することを検討する価値があります。
特に、不貞行為に関する取り決めや財産管理、婚姻費用の負担など重要な内容を定める場合には、公正証書にすることで契約内容を明確に残すことができます。
証拠力が高い
公正証書は、公証人が本人確認および意思確認を行ったうえで作成する公文書です。そのため、後日になって「署名した覚えがない」「内容を理解していなかった」「強制的に署名させられた」などの主張がされるリスクを軽減できます。
また、公証人が作成に関与することで、契約内容や締結日時が明確に記録されます。将来、夫婦間で契約内容について争いになった場合にも、有力な証拠となる可能性があります。
公正証書は契約内容だけでなく、「当事者がその内容に同意していた」という事実についても証明しやすいというメリットがあります。
将来の紛争予防
公正証書を作成する際には、公証人との事前打ち合わせや内容確認が必要になります。その過程で、曖昧な表現や実現困難な条項、不合理な内容を見直すことができます。
また、正式な手続を経て契約を締結することで、当事者双方が契約内容を十分に理解したうえで合意しやすくなり、後日のトラブル防止にもつながります。
特に、不貞行為や財産管理、生活費負担などについては、結婚前に認識のずれが生じていることも少なくありません。公正証書を作成する過程で双方の考え方を整理できることも大きなメリットです。
強制執行認諾文言を付けられる場合がある
公正証書の大きな特徴の一つが、一定の金銭支払義務について強制執行認諾文言を付けることができる場合がある点です。
強制執行認諾文言とは、約束した支払が行われなかった場合に、裁判を経ることなく強制執行を受けても異議がないことを認める条項です。
例えば、婚前契約書を作成する時点で既に不貞行為が発覚しており、その慰謝料について当事者間で支払額や支払方法の合意が成立している場合には、その支払義務を公正証書に記載し、強制執行認諾文言を付すことが考えられます。
この場合、約束どおりに支払が行われなければ、改めて訴訟を提起して判決を取得することなく、給与や預貯金などに対する強制執行を申し立てられる可能性があります。
もっとも、「将来不貞行為をした場合には慰謝料○○万円を支払う」といった将来発生する不確定な債務については、不貞行為の有無そのものに争いが生じる可能性があります。そのため、直ちに強制執行認諾文言による執行が認められるとは限りません。
このように、公正証書は証拠力を高めるだけでなく、既に発生している慰謝料債務などについては、将来の回収手段を確保できる可能性がある点も大きなメリットといえます。
婚前契約書を作成する際の注意点
婚前契約書は、自由に作成できます。しかし、どのような内容でも有効になるわけではありません。
内容が公序良俗に反しないこと
公序良俗とは、社会的に見て許される範囲のルールをいいます。
一方に過度な制限を課す内容や、人格を不当に拘束する内容は、効力が問題になる可能性があります。
実現可能な内容にすること
実際に守れない内容を入れても、将来の紛争予防にはなりません。
たとえば、異性との一切の連絡を禁止するなど、仕事や日常生活に支障が出る内容は慎重に検討すべきです。
双方が納得して締結すること
婚前契約書は、双方が納得して締結することが大切です。
強制的に署名させた場合や、十分な説明がないまま作成した場合、後日トラブルになるおそれがあります。
婚前契約書は行政書士に依頼できるのか
婚前契約書の作成は、行政書士に依頼できます。
行政書士は、契約書や合意書などの権利義務に関する書類作成を業務として取り扱います。婚前契約書も、その一つです。
ただし、すでに紛争になっている場合や、相手方との交渉代理が必要な場合は、弁護士の対応領域となります。
行政書士に依頼することで、希望内容を整理し、過度な条項や曖昧な表現を避けた契約書を作成しやすくなります。
よくある質問
婚前契約書は自分で作れますか
自分で作成することも可能です。ただし、不貞行為、違約金、慰謝料、公正証書に関する条項は、表現を誤ると効力が問題になることがあります。重要な内容を定める場合は、専門家への相談をおすすめします。
テンプレートでも有効ですか
テンプレートでも、双方が合意して署名押印すれば契約書として成立する可能性はあります。ただし、夫婦ごとの事情に合っていない内容では、将来使いにくい契約書になることがあります。
公正証書にしなければ意味がありませんか
私文書でも意味はあります。ただし、本人確認、意思確認、証拠力を重視する場合は、公正証書にするメリットがあります。
再婚の場合も作成できますか
再婚の場合も作成できます。前婚の子ども、養育費、相続、財産管理、不貞行為への不安など、初婚よりも整理すべき事項が多いこともあります。
不貞行為の証明はどうしますか
メッセージ、写真、宿泊記録、探偵調査報告書などが証拠になることがあります。ただし、違法な方法で取得した証拠は問題になる場合があります。証拠収集は慎重に行う必要があります。
婚前契約書で浮気を完全に防げますか
契約書だけで浮気を完全に防ぐことはできません。しかし、禁止事項や違反時の対応を明確にすることで、抑止力や紛争予防の効果が期待できます。
不貞行為の違約金はいくらが妥当ですか
一律の基準はありません。婚姻期間、収入、資産、行為の内容、精神的苦痛の程度などを踏まえて検討します。高額すぎる金額は効力が争われる可能性があります。
まとめ
婚前契約書には、不貞行為、浮気、不倫、異性との宿泊、マッチングアプリ利用、SNSでの不適切な交流などについて定めることができます。
また、不貞行為があった場合の違約金や慰謝料についても、合理的な範囲で定めることが可能です。
ただし、内容が高額すぎる場合や、一方に過度な負担を課す場合は、効力が問題になることがあります。
婚前契約書は、結婚前の不安を整理し、将来のトラブルを防ぐための大切な書面です。特に、不貞行為への不安、再婚、財産管理、公正証書化を検討している方は、早めに専門家へ相談することをおすすめします。



コメント