相続放棄後も家を管理する必要がある?民法940条の保存義務と相続財産清算人を行政書士が解説【2026年版】 - 相続・遺言・離婚専門の大倉行政書士事務所

2026.10.03

相続放棄後も家を管理する必要がある?民法940条の保存義務と相続財産清算人を行政書士が解説【2026年版】

相続放棄後も家を管理する必要がある?民法940条の保存義務と相続財産清算人を行政書士が解説【2026年版】

相続放棄をした方から、「家庭裁判所で相続放棄が受理されたのだから、亡くなった親の家にはもう一切関わらなくてよいのでしょうか」「空き家の草刈りや雨漏りの対応を続けなければならないのでしょうか」というご相談が生じることがあります。

相続放棄をすると、その相続については初めから相続人ではなかったものとして扱われます。しかし、相続放棄と、手元にある相続財産を直ちに放置してよいかという問題は別です。

現在の民法940条では、相続放棄をした人が放棄の時に相続財産に属する財産を「現に占有」している場合には、その財産を相続人または相続財産清算人へ引き渡すまで、自己の財産と同じ注意をもって保存することが定められています。

この記事のポイント

相続放棄をした人全員に一律の保存義務が発生するわけではありません。重要なのは、相続放棄の時点で、その財産を現に占有していたかという点です。また、保存義務がある場合でも、永久に続くものではありません。

相続放棄後の「管理義務」は現在どうなっている?

以前の民法940条は、相続放棄をした人について、次の相続人が相続財産の管理を始めることができるまで管理を継続するという形の規定でした。そのため、「遠方に住んでいて実家に全く関与していない人まで管理を続けなければならないのか」といった疑問が生じやすい状態でした。

現在の規定では対象が整理され、相続放棄をした人が保存義務を負うのは、放棄の時に相続財産に属する財産を現に占有している場合とされています。

確認するポイント 考え方
相続放棄が成立しているか 家庭裁判所への相続放棄の申述が必要です。単に親族へ「相続しない」と伝えただけでは、法律上の相続放棄にはなりません。
放棄時に財産を現に占有しているか 建物に居住している、実際に財産を使用・管理しているなど、具体的な状況から判断されます。
保存義務の対象 現に占有している相続財産が対象となります。放棄者が全く関与していない全国各地の財産について当然に保存義務を負うという制度ではありません。
いつまで続くか 相続人または相続財産清算人へ、その財産を引き渡すまでが基本です。

「相続放棄をした人は全員、亡くなった人の不動産を永久に管理しなければならない」という理解は、現在の民法940条の内容とは異なります。

「現に占有している」とはどのような状態なのか

相続放棄後の保存義務を考えるうえで、最も重要になりやすいのが「現に占有」という言葉です。

単に戸籍上の相続人であったことや、亡くなった人の子であることだけで、当然に現に占有していることになるわけではありません。実際にどのように財産と関わっていたのかを確認する必要があります。

亡くなった親と同居していた場合

例えば、親名義の住宅で親と一緒に暮らしており、親の死亡後もその住宅に住み続けているケースでは、建物を現に占有していると評価される可能性があります。

この状態で相続放棄をした場合には、放棄した瞬間から建物を好きに処分できるわけではありません。次の相続人や相続財産清算人へ引き渡せるまで、必要な保存を行うことが問題になります。

何年も前から別居し、実家を使用していない場合

これに対し、亡くなった親とは長期間別居しており、相続開始時にも実家を使用しておらず、現実の管理にも関与していなかったケースでは、事情が大きく異なります。

相続によって観念的に占有を承継したというだけではなく、現在の民法940条は放棄時の現実の占有状況を問題としています。

鍵を持っているだけならどうなる?

「実家の鍵を預かっている」という事情だけで、必ず保存義務がある、または必ずないと断定することは適切ではありません。

鍵を持っているほかに、定期的に家へ入り換気をしている、家財を保管している、第三者の出入りを管理している、建物を継続的に使用しているなど、具体的な事情を総合的に確認する必要があります。

状況の例 保存義務を考える際のポイント
亡くなった親の家に現在も居住している 現に占有していると評価される可能性が高く、保存義務を検討する必要があります。
遠方で生活し、実家を長年使用していない 現に占有していないのであれば、民法940条による保存義務の対象外となる可能性があります。
鍵だけを預かっている 鍵の所持だけではなく、建物の使用・管理の実態を確認します。
故人の自動車や動産を自宅で保管している その動産を現に占有している場合には、その財産について保存義務が問題となります。

注意点

「現に占有しているか」は個別事情によって判断されます。建物の鍵を持っている、固定資産税の通知が届く、親族から管理を頼まれていたなど、一つの事情だけで機械的に結論を出さないことが重要です。

保存義務がある場合、何をしなければならない?

民法940条が定めているのは、相続放棄後も故人の財産を積極的に運用し続ける義務ではありません。現在の規定では財産の「保存」が中心です。

そのため、相続放棄をした人に、空き家を全面改修したり、自己資金で大規模な工事をしたり、財産価値を積極的に高めたりすることまで当然に求められるわけではありません。

一方、現に占有している財産を故意に壊す、持ち去る、処分する、著しく損傷させるといった行為は避けなければなりません。

保存と処分を区別する

相続放棄後に特に注意したいのは、保存のための行為と財産の処分を混同しないことです。

例えば、建物内にある高価な動産を独断で売却する、故人の預金を自分の生活費へ充てるなどの行為は、単なる保存とはいえません。相続放棄を予定している段階では、財産の処分が相続の承認に関する問題を生じさせる可能性もあるため、特に慎重な対応が必要です。

相続放棄前はさらに注意

相続放棄をまだ申し立てていない段階で遺産を売却・消費するなどすると、法定単純承認との関係が問題になることがあります。遺品整理を急ぐ場合でも、高額品や預貯金、不動産などについて自己判断で処分するのは避けた方が安全です。

自分が相続放棄すると次は誰が相続人になる?

相続放棄後の引継ぎ先を考えるには、「自分以外に誰が相続人になるのか」を確認する必要があります。

配偶者は一定の場合に相続人となり、血族相続人には順位があります。第1順位が子などの直系卑属、第2順位が父母などの直系尊属、第3順位が兄弟姉妹です。

例えば、亡くなった人の子全員が相続放棄すると、条件を満たす父母などの直系尊属が次の相続人となることがあります。さらにその順位の人も全員が放棄すると、兄弟姉妹などが相続人となる場合があります。

そのため、「子ども全員で放棄したから、これで相続人はいない」とは限りません。

順位 主な相続人 確認事項
第1順位 子など 死亡している子がいる場合は代襲相続も確認します。
第2順位 父母・祖父母など 第1順位の相続人がいない、または全員が放棄した場合に問題となります。
第3順位 兄弟姉妹など 兄弟姉妹が死亡している場合は、おい・めいの代襲相続が問題となることがあります。

誰へ引き継げばよいのか分からない場合は、戸籍をたどって相続関係を整理することが重要です。

相続人全員が放棄した場合はどうなる?

先順位から後順位まで相続人となり得る人が全員相続放棄をし、結果として相続する人がいなくなることがあります。

このような場合に利用されるのが相続財産清算人の制度です。

裁判所の案内では、相続人の存在・不存在が明らかでない場合や、相続人全員が相続放棄をした結果として相続する人がいなくなった場合、家庭裁判所が申立てによって相続財産清算人を選任します。

選任された相続財産清算人は、被相続人の債務の支払いや財産の換価など必要な清算を行い、手続後に残余財産がある場合には、特別縁故者への分与等を経たうえで、最終的な国庫帰属に向けた手続を行います。

相続財産清算人の申立て

項目 内容
主な申立人 被相続人の債権者、特定遺贈を受けた人、特別縁故者などの利害関係人、検察官
申立先 被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所
申立手数料 収入印紙800円分
その他の基本費用 連絡用郵便料、官報公告料。裁判所の案内では官報公告料5,582円とされています。
予納金 相続財産だけでは清算人の管理費用や報酬等が不足する可能性がある場合、家庭裁判所から相当額の予納を求められることがあります。

収入印紙800円だけで清算手続全体が終わるという意味ではありません。相続財産の内容によっては予納金が必要になるため、申立て前に管轄家庭裁判所の最新案内を確認することが重要です。

必要になる戸籍は多くなることがある

相続財産清算人を選任するには、相続人が存在しないことを確認する必要があります。そのため、被相続人の出生から死亡までの戸籍だけでなく、父母、子、兄弟姉妹などについて広い範囲の戸籍が必要になることがあります。

不動産がある場合は登記事項証明書、預貯金があれば残高が分かる資料など、相続財産を示す資料も必要になります。

相続財産清算人と相続土地国庫帰属制度は別の制度

「不要な土地を国へ返す」という言葉から、相続財産清算人の制度と相続土地国庫帰属制度を同じものと考えてしまうことがありますが、両者は異なる制度です。

制度 主な場面 概要
相続財産清算人 相続人がいない場合など 家庭裁判所が清算人を選任し、相続財産全体の管理・清算を進めます。
相続土地国庫帰属制度 相続等で土地を取得した所有者が一定の土地を国へ引き渡したい場合 法務局へ申請し、要件審査や負担金の納付等を経て土地を国庫へ帰属させる制度です。

相続放棄をした人は、その相続について初めから相続人ではなかったものと扱われるため、「相続放棄した土地を自分が相続土地国庫帰属制度で国に返す」という整理にはなりません。

空き家がある場合に相続放棄前から確認したいこと

実家などの不動産がある相続では、借金の有無だけでなく、建物そのものの状態も確認しておくことが大切です。

奈良県生駒市や奈良市には山間部や住宅地の空き家もあり、相続人が大阪市や東大阪市など遠方に居住しているケースでは、現地確認が難しいこともあります。

相続放棄を検討する場合には、少なくとも次のような事項を整理しておくと、その後の判断をしやすくなります。

確認しておきたい事項

被相続人名義の土地・建物の所在、現在誰が居住しているか、鍵を誰が管理しているか、賃貸の有無、建物の破損状況、固定資産税関係書類、住宅ローン・抵当権、預貯金その他の資産、借入金、次順位の相続人の有無などを整理します。

相続放棄には原則として熟慮期間があるため、空き家だけに気を取られて期限を過ぎないよう注意が必要です。

相続放棄後にやってはいけない対応

相続放棄が受理された後も、「どうせ自分のものではないから」と財産を自由に扱うことは避ける必要があります。

勝手に売却する

相続放棄後は相続財産の所有者として処分する立場ではありません。車、貴金属、機械類などを独断で売却することは避けましょう。

家財をすべて廃棄する

明らかなごみの処理と、資産価値を持つ遺産の処分は同じではありません。特に高価な家財、通帳、証券、権利書類、契約書類などは慎重に扱う必要があります。

次順位の親族への連絡を全く考えない

自分の相続放棄によって次順位の親族が相続人となる場合があります。法律上どこまで連絡義務があるかという問題とは別に、後から突然債権者から請求が届くなどの混乱を避けるため、相続関係を整理しておくことは実務上重要です。

よくある質問

相続放棄が受理されたら、実家の草刈りを一生続ける必要がありますか?

一生続くという制度ではありません。民法940条の保存義務は、放棄時に相続財産を現に占有している場合に問題となり、相続人または相続財産清算人へ財産を引き渡すまでが基本となります。まず、自分が現に占有しているケースなのかを確認する必要があります。

親の家から遠く離れて暮らしていても保存義務がありますか?

単に子であるという理由だけで一律に保存義務が生じるわけではありません。放棄時にその不動産を現に占有していたかが重要です。実際の使用・管理状況を確認して判断します。

相続人全員が放棄すれば家は自動的に国のものになりますか?

相続人全員が放棄した瞬間に、空き家が直ちに国へ引き取られるという仕組みではありません。相続財産清算人が選任され、債務の清算や相続人の捜索など法律上の手続を経たうえで、残余財産が国庫へ帰属する流れがあります。

相続財産清算人の申立てにはいくらかかりますか?

裁判所の基本案内では収入印紙800円、連絡用郵便料、官報公告料が必要です。ただし、相続財産から清算人の管理費用や報酬等を賄えない可能性がある場合には、相当額の予納金を求められることがあります。

相続放棄する予定ですが、遺品整理を先にしてもよいですか?

相続放棄前に相続財産を処分すると、法定単純承認との関係が問題になることがあります。特に換価できる財産、預貯金、車、不動産などは自己判断で処分せず、相続放棄への影響を確認してから対応することをおすすめします。

まとめ|相続放棄後は「現に占有しているか」を最初に確認する

相続放棄をすると、原則としてその相続について初めから相続人ではなかったものとみなされます。しかし、放棄の時点で相続財産を現に占有している場合には、その財産を次の相続人や相続財産清算人へ引き渡すまで保存義務が生じることがあります。

反対に、遠方に居住しており、亡くなった人の不動産や動産を現に占有していない人まで、当然にすべての相続財産を管理し続ける制度ではありません。

相続放棄の有無、現に占有している財産、次順位の相続人、相続財産清算人の必要性を分けて整理することが重要です。

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相続放棄そのものは家庭裁判所の手続であり、紛争や裁判手続については内容に応じて適切な専門家への相談が必要になります。当事務所では、状況を整理したうえで行政書士として対応可能な業務をご案内します。

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