遺産分割前に預金を引き出せる?預貯金払戻し制度の上限・必要書類・注意点 - 相続・遺言・離婚専門の大倉行政書士事務所

2026.09.29

遺産分割前に預金を引き出せる?預貯金払戻し制度の上限・必要書類・注意点

遺産分割前に預金を引き出せる?預貯金払戻し制度の上限・必要書類・注意点

家族が亡くなった後、葬儀代や当面の生活費を支払いたいのに、遺産の分け方が決まらず預金を動かせないことがあります。こうした場合に確認したいのが、遺産分割前の預貯金払戻し制度です。一定の範囲なら、ほかの相続人全員の同意や家庭裁判所の判断を経ずに払戻しを請求できます。ただし、誰でも一律150万円を受け取れるわけではありません。この記事では、上限の計算、必要書類、銀行への申請、受領後の精算までを整理します。相続放棄を検討している方が、利用前に確認したい注意点も解説します。

遺産分割前の預貯金払戻し制度とは

遺産分割の対象となる預貯金について、分割が終わる前に相続人が一定額を単独で払い戻せる制度です。民法909条の2に基づく方法では、他の共同相続人の同意をそろえなくても、法律上の計算と上限の範囲で請求できます。口座全体の凍結を解除し、自由に利用できるようにする制度とは異なります。[1]

例えば、配偶者の生活費を故人の口座で管理していた場合や、遺産分割協議が整うまでに支払予定がある場合に、選択肢となります。ただし、銀行は申請者が相続人であることや法定相続分を確認するため、所定の書類を求めます。「葬儀の請求書と通帳を持っていけば、その場で現金を受け取れる」というものではありません。[2]

最初に押さえたい結論

この制度は、遺産のうち一定額を先に取得する仕組みです。追加でもらえるお金でも、相続人全員を代表して自由に使えるお金でもありません。払戻しを受けた人の取得分として、後の遺産分割で考慮します。

根拠となる民法909条の2は、e-Gov法令検索の民法で確認できます。以下では、まず家庭裁判所を経ない銀行窓口での払戻しを中心に説明し、別の方法との違いも整理します。

払戻しの上限はいくら?計算式と150万円の意味

相続開始時の残高と法定相続分で計算する

単独で払い戻せる額は、口座ごとに計算します。定期預金については明細ごとの計算となります。基準になるのは相続開始時、通常は亡くなった時点の預金額であり、申請日の通帳残高をそのまま当てはめるわけではありません。[3]

口座・明細ごとの計算式

相続開始時の預金額 × 3分の1 × 払戻しを求める相続人の法定相続分

さらに、同じ相続について、同じ相続人が同じ金融機関から受けられる払戻しは合計150万円までです。

「法定相続分」は法律に基づく割合です。家族内で「長女が多く受け取る予定」と話していても、この制度の計算割合をその予定に置き換えることはできません。また、実際に請求できる額は、対象となる預金や既に行われた払戻しも踏まえ、金融機関で確認します。[1]

配偶者と子ども2人が相続人の場合の計算例

以下は、相続人が配偶者と子ども2人で、配偶者の法定相続分が2分の1、子どもは各4分の1となる場合の架空の例です。遺言などの特別な事情や、既に行われた払戻しはないものとします。

預金と請求する人計算この例の上限
A銀行の1口座600万円・配偶者600万円 × 3分の1 × 2分の1100万円
A銀行の1口座600万円・子ども1人600万円 × 3分の1 × 4分の150万円
B銀行の1口座1,200万円・配偶者計算結果は200万円金融機関ごとの上限により150万円
B銀行の1口座1,200万円・子ども1人1,200万円 × 3分の1 × 4分の1100万円

このように、預金残高が少ない場合や法定相続分が小さい場合には、上限は150万円より少なくなります。一方、150万円は相続人全員で分け合う一つの枠ではなく、払戻しを求める相続人ごとに確認する上限です。

支店を変えても上限は増えない

同じ銀行の本店と別支店に口座があっても、銀行単位で合算します。例えば、配偶者の計算上の払戻額が本店100万円、別支店100万円となっても、その銀行から受けられるのは合計150万円までです。別の銀行については別途計算します。[3]

窓口や申請日を変えるたびに150万円の枠が復活するわけでもありません。預金一覧を作る際は、金融機関名、支店名、口座・明細、相続開始時の残高、既に受け取った額を分けて記録しておくと、二重計算を防げます。

利用前に確認したい相続放棄・遺言・相続人の問題

相続放棄を考えているなら、払戻しより先に確認する

故人の借金が多い可能性がある場合は、お金を受け取る前に相続放棄との関係を確認してください。民法921条は、相続財産の処分などについて単純承認をしたものとみなす場合を定めています。制度を使った払戻しも、銀行で受け付けてもらえたから相続放棄に影響しない、と判断することはできません。[1]

葬儀費用への充当や立替金の回収についても、支出内容や金額、経緯などを確認せずに「必ず問題ない」とはいえません。既に引き出した場合は、日付、金額、使途、残額、領収書を整理して弁護士等に相談しましょう。

手続きの順番が重要です

相続放棄を検討している方は、払戻しや支払いの前に専門家へ確認してください。借金の調査、相続するかどうかの判断、銀行への請求を別々に進めないことが大切です。

相続放棄は原則として、自己のために相続が開始したことを知った時から3か月以内に家庭裁判所へ申述します。期限と手続きは、裁判所の「相続の放棄の申述」で確認できます。

遺言があるときは、内容を銀行へ伝える

この制度は、遺産分割の対象となる預貯金についての制度です。遺言で預金の取得者が定められている場合などには、制度を利用できないことがあります。遺言書の有無や遺言執行者の存在を隠さず伝え、どの相続手続きで進めるのかを先に確認してください。[2]

遺言が見つかったら、まず写しや保管状況を整理し、銀行の案内する確認方法に従います。遺言の意味や有効性に争いがある場合は、窓口での書類補充だけで解決しようとせず、弁護士へ相談する必要があります。

家族であることと、請求できる相続人であることは別

故人と同居していた、介護をしていた、葬儀を主催したという事情だけで利用できるわけではありません。申請者が相続人に当たり、どの法定相続分を持つのかが確認できる必要があります。兄弟姉妹が相続人となる場合など、家族関係によっては追加の戸籍が必要になります。[3]

銀行に提出する必要書類と、戸籍の集め方

必要書類は金融機関や相続関係によって異なります。まず専用の案内を取り寄せ、一般的な相続解約用の書類と混同しないようにしてください。全国銀行協会の案内では、本人確認書類のほか、故人の出生から死亡までの戸籍、相続人全員の戸籍、払戻しを求める人の印鑑証明書などが示されています。[2]

書類・情報確認する目的準備時の注意
故人の出生から死亡までの連続した戸籍・除籍等死亡と相続関係を確認する最新の戸籍1通だけでは足りないことがある
相続人全員の戸籍等相続人と法定相続分を確認する他の提出戸籍と重複する場合の扱いを確認する
請求する相続人の印鑑登録証明書・本人確認書類申請者の本人確認をする証明書の発行時期や有効な本人確認書類は銀行に確認する
銀行所定の請求書、実印、通帳等対象口座と請求内容を特定する必要物と紛失時の取扱いは専用の案内で確認する
法定相続情報一覧図の写し戸籍一式に代わる資料として利用できる場合がある利用可否と、別に必要な資料を金融機関ごとに確認する

単独で請求できても、自分の戸籍だけで足りるとは限りません。法定相続分を確認するために、相続関係全体の資料が必要になるからです。一方、単独請求の制度である以上、一般の遺産分割協議による払戻しと同じように、当然に全員の署名・実印が必要だと考えるのも適切ではありません。

例えば三井住友銀行の案内では、戸籍や法定相続情報一覧図の作成・発行時期、請求者の印鑑登録証明書の発行時期に条件があります。これは同銀行の取扱いであり、他行にもそのまま当てはめないでください。複数行へ提出する場合は、原本の返却方法も先に聞くと整理しやすくなります。[3]

申請から受取りまでの流れ

1.必要なお金と支払期限を整理する

最初に、支払先、必要額、期限、自分で立て替えられる額を書き出します。制度上の上限いっぱいまで引き出すことを先に決めるより、当面の必要額を把握した方が、過大な請求や精算の混乱を避けやすくなります。葬儀代、住居費、医療費などは、請求書ごとに区別してください。

2.取引金融機関へ制度名を伝えて問い合わせる

「民法909条の2に基づく遺産分割前の払戻しを検討している」と伝え、取扱窓口、申請方法、書類、見込まれる確認期間を尋ねます。死亡の事実、遺言の有無、既に他の相続手続きが進んでいるかなども説明すると、別の手続きの案内を受けてしまう行き違いを減らせます。

問い合わせの際に手元に置くメモの例

故人の氏名・死亡日/金融機関名・支店名/把握している口座/相続人の続柄/遺言の有無/必要額・支払期限/既に払い戻した額

これは情報整理用の例であり、銀行へ提出する正式な請求書の代わりにはなりません。

3.書類をそろえ、請求内容の確認を受ける

金融機関の案内に従って書類を提出します。提出後に相続関係や請求内容を確認するため、追加資料の提出が必要になることもあります。書類を提出した日に必ず払戻しを受けられるわけではありません。支払いを急ぐ場合は、その事情を銀行へ伝えるとともに、支払先への期限の相談も検討しましょう。[3]

4.受領額を記録し、遺産分割の資料に残す

受領日、金融機関、対象口座、受領者、金額を記録し、請求書の控えや入出金明細を保存します。手続きに同意が不要であることと、家族に説明しなくてよいことは別です。安全に連絡できる状況であれば、払戻しの事実と支出記録を共有すると、後の認識の食い違いを減らせます。

生駒市の方が奈良市に住むきょうだいと相続手続きを進める場合など、離れて暮らす相続人がいるときも、共通の明細表を作っておくと説明しやすくなります。各行の通常の相続手続きは、預金の一部を先に受け取る手続きとは分けて確認してください。

受け取った預金の精算と、葬儀費用の注意点

先に受け取った分を二重に取得しない

民法909条の2により払い戻した預貯金は、受け取った相続人が遺産の一部の分割により取得したものとみなされます。そのため、最終的な遺産分割では、既に受け取った金額を考慮して整理します。[1]

例えば、最終的な合意である相続人の取得総額を300万円と定め、その中に先行払戻し60万円を含める場合、追加で渡す額は240万円となります。これは計算方法を示す架空の例です。取得総額自体は、遺産全体や合意内容を踏まえて決めるため、どの相続でも自動的にこの計算になるわけではありません。

銀行から払い戻せることと、費用を誰が負担するかは別

葬儀代などに使う予定でも、銀行が払戻しに応じたことをもって、相続人全員がその費用負担に同意したと考えてはいけません。誰が契約した費用なのか、誰が立て替えたのか、最終的に誰が負担するのかを分けて記録し、必要に応じて相続人間で確認しましょう。

自分が既に立て替えた費用を払い戻した預金で補う場合も、元の支払いの領収書と、立替金を精算した記録を残します。「銀行から受領した記録」と「費用を支払った記録」の片方だけでは、お金の流れが分かりにくくなるためです。

残しておく記録記載する内容の例
払戻しの記録受領日、金融機関・口座、受領者、金額
支出・立替えの記録支払日、支払先、費目、金額、領収書、実際の支払者
家族間での確認記録費用負担について合意した事項と、未合意の事項
精算時の記録先に受け取った額を誰の取得分として扱うか、追加で支払う額

払戻金を自分の生活資金と混ぜる場合でも、少なくとも明細上は区別してください。残額があるときはその額も記録し、精算前に使途が分からなくならないよう管理します。費用負担や使い込みの問題で争いが生じた場合は、弁護士への相談が必要です。

上限では足りないときに検討する方法

法律上の枠を超える資金が必要な場合は、同じ請求を繰り返すのではなく、別の手続きが必要かを確認します。全員の合意によって対象預金の分割を進める方法と、家庭裁判所の判断を求める方法は、前提や準備する資料が異なります。

方法主な前提注意点
民法909条の2による払戻し相続人が法律上の範囲で単独請求する計算式と同一金融機関150万円の上限がある
合意によって預金の分割を進める共同相続人全員で対象や取得者等を合意する銀行所定の相続手続きと書類を確認する
家庭裁判所の判断による仮の取得遺産分割の調停・審判が申し立てられている仮払いの必要性と、他の相続人の利益を害さないこと等の審査がある

家庭裁判所の判断による方法では、裁判所が仮の取得を認めた額の払戻しを受けます。銀行窓口の制度と同じ150万円上限がそのまま適用されるわけではありませんが、希望した額が当然に認められるわけでもありません。生活費の必要性などを具体的に示す準備が必要です。[2]

遺産分割について話合いが整わない場合の手続きは、裁判所の家事事件Q&Aも参考になります。裁判所への申立てや相続人間の交渉は、弁護士等に相談してください。

預貯金払戻し制度のよくある質問

ほかの相続人と連絡が取れなくても利用できますか?

民法909条の2の方法は他の相続人の同意を前提としません。ただし、相続人や法定相続分の確認は必要です。連絡が取れないことと、必要書類を省略できることは別なので、手元の資料を銀行に示して確認してください。

葬儀代であれば、計算上の上限を超えて引き出せますか?

葬儀代という理由だけで、この制度の計算式や150万円の上限を超えられるわけではありません。必要額が上限を超えるときは、全員の合意による手続きや裁判所の制度など、別の方法を検討します。

一部を受け取れば、残りの預金も自由に引き出せますか?

できません。対象となる一定額の払戻しと、残りの預金の相続手続きは別です。残額については、遺産分割協議や遺言など、個別の事情に応じた手続きを進めます。

通帳が見つからない場合は諦めるしかありませんか?

まず、口座があると思われる金融機関に相談してください。口座の確認方法、紛失に関する届出、代わりに必要な書類は金融機関によって異なります。口座情報が不明な場合は、その調査も含めて日程を考える必要があります。

行政書士に相談できるのはどの部分ですか?

相続関係を確認するための戸籍収集や、争いのない範囲での合意内容の書面化などが相談対象です。家庭裁判所提出書類の作成は行政書士の業務として扱えません。裁判所手続きや紛争は弁護士、裁判所提出書類の作成は対応範囲を確認した司法書士等へ相談してください。

まとめ|金額・書類・受領後の精算を一緒に確認する

遺産分割前の預貯金払戻し制度を使うときは、相続開始時の預金額と法定相続分から計算し、同じ金融機関の全支店を通じた上限を確認します。そのうえで、必要書類、実際に受け取れる時期、受領後の精算方法を整理しましょう。

借金や遺言の問題がある場合は、先に現金を確保することだけを優先しないことが重要です。必要額と期限を一覧にし、銀行と適切な専門家へ事情を伝えることが、無理のない手続きにつながります。

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奈良県生駒市の大倉行政書士事務所では、相続に必要な戸籍の収集や、争いのない相続に関する書類作成などについて、事情を伺い、行政書士が対応できる範囲をご案内します。東大阪市などに暮らすご家族と手続きを進める場合も、現在そろっている書類と、銀行から案内された内容を整理しておくと相談が円滑です。

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参考サイト

  1. e-Gov法令検索「民法」(法定相続分、909条の2の払戻し、921条の法定単純承認)
  2. 全国銀行協会「遺産分割前の相続預金の払戻し制度」案内資料
  3. 三井住友銀行「民法909条の2に基づく遺産分割前の相続預金の払戻し制度」
  4. 裁判所「相続の放棄の申述」
  5. 裁判所「裁判手続 家事事件Q&A」

制度・参照情報は2026年9月29日時点で確認しています。提出書類、取扱方法、確認に要する期間は金融機関と個別の事情によって異なるため、利用時には最新の案内を確認してください。

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