遺言執行で賃貸物件を引き継ぐには?家賃・敷金・契約と管理会社への連絡

遺言の対象にアパートや貸家などの賃貸物件がある場合、遺言執行者は名義の手続きだけでなく、契約書、家賃の入出金、敷金、管理会社との連絡を整理して引き継ぐ必要があります。ただし、執行者に指定されたことで、賃貸経営を無期限に引き受けたり、すべての契約を自由に変更したりできるわけではありません。
まず遺言の内容と執行者の権限、財産を受け取る人を確認し、引継ぎまでに必要な管理と、その後の所有者・管理会社の業務を分けます。この記事では、一般の方が遺言執行者となり、賃貸物件の資料や金銭を引き継ぐ際の確認順序を説明します。
物件を誰へ渡す遺言か、売却する遺言かを先に確認する
特定の人へ不動産を渡す遺言と、売却して代金を分ける遺言では、その後の作業が変わります。物件名だけでなく、土地・建物・共有持分の表示、対象となる範囲、収益や費用に関する指定を遺言書全体から確認してください。
民法第1012条の遺言執行者の権利義務に基づいても、できる行為は遺言の内容や法令に応じて検討します。遺言に書かれていない別の物件までまとめて処分したり、受取人の希望だけで配分を変えたりすることは避けます。古い遺言には経過措置が関係する場合があるため、作成日と相続開始日も相談先へ伝えます。
所有者としての立場と、執行者としての立場を分ける
執行者自身が物件を受け取る場合も、引継ぎまでに預かった家賃や支払った費用を、私的な収支と混ぜないようにします。自分が取得する予定だからという理由で、ほかの受取人に関係する資料を省いたり、費用を独断で配分したりしないでください。
所有者や貸主の地位を誰が承継するかと、入居者が当面どこへ家賃を支払うかも、別に確認します。受取口座を変更する連絡だけで、法律上の帰属や契約関係がすべて確定するわけではありません。
物件・部屋ごとに、契約と金銭を対応させる

アパート全体で通帳を一冊使っている場合でも、部屋ごとの契約条件や敷金は異なることがあります。物件単位の資料と、各部屋・各契約の資料を分け、同じ識別番号で対応させると、引継ぎ漏れを見つけやすくなります。
| 区分 | 確認する主な内容 | 照合する資料 |
|---|---|---|
| 物件 | 所在地、地番、家屋番号、持分 | 登記情報、固定資産税資料 |
| 契約 | 部屋、契約期間、賃料、更新、保証 | 賃貸借契約書、変更合意書 |
| 家賃 | 対象月、入金日、未収、前受け | 家賃台帳、通帳、管理明細 |
| 敷金等 | 受領額、返還条件、既精算分 | 契約書、受領証、精算書 |
| 管理 | 管理会社、修繕、保険、設備 | 管理契約、請求書、点検資料 |
物件には駐車場、倉庫、店舗、サブリースなど、契約の種類が違うものを同じ条件で扱わないようにします。書類のない口頭の変更が説明された場合は、誰からいつ聞いたかを記録し、裏付けを確認してください。
原本が見つからないときは、保管先を調べる
遺言者の自宅だけでなく、管理会社、不動産会社、過去に依頼した専門家等に契約書の控えがある場合があります。問い合わせる際は、執行者の立場と権限を示すために何が必要かを確認します。関係者であることだけで、無条件に資料の開示を受けられると決め付けないでください。
古い契約書だけが見つかった場合は、更新、賃料変更、保証契約の変更がないかも確認します。現在の管理明細と金額が違うときは、古い書面の数字へ合わせて台帳を直さず、差が生じた理由を調べます。
家賃は、対象期間・入金日・帰属を分けて記録する
死亡前の未収家賃が死亡後に入金される場合や、翌月分を前月に受け取っている場合があります。単に死亡日以後の入金をすべて同じ種類の収入として扱うと、引継ぎや税務の確認が難しくなります。どの契約の、どの期間に対応する金銭かを残してください。
公式の確認先:国税庁:不動産所得の収入計上時期。
相続開始後の家賃の帰属は、遺言の内容や権利関係によって確認が必要です。国税庁には未分割遺産から生じる不動産所得の取扱いの案内もありますが、その説明を、特定の遺言により物件を取得する場合へ無条件に当てはめないようにします。
執行者が受領したことと、所得を得たことは同じではない
執行のために一時的に家賃を受け取っている場合でも、誰の所得に当たるかを確認します。受取口座の名義だけで税務判断をせず、契約、対象期間、物件の取得者、実際の処理を税理士へ伝えてください。
国税庁は、不動産所得の収入計上時期について、契約で定めた支払日などに応じた扱いを示しています。通帳への入金日だけを基準に集計した一覧では足りない場合があるため、賃貸借契約の支払条件も一緒に渡します。
未収家賃は、金額と対応経過を引き継ぐ
滞納がある場合は、対象月、請求額、受領額、過去の連絡、分割払い等の約束の有無を整理します。回収できる見込みが不明なものを、現金残高と同じ確定額として扱わないようにします。期限や時効が問題になり得るため、長期間の未収については早めに弁護士へ相談します。
当事務所の手続き支援は、紛争となっている家賃回収の交渉や明渡し請求を代行するものではありません。遺言執行の資料整理と、賃借人との争いへの対応を分けてください。
敷金は、自由に分配できる売上と考えない
敷金等には、賃貸借の終了時などに精算・返還が問題になる金銭があります。民法第622条の2等を踏まえ、契約の内容、受領額、既に精算した額、返還義務の承継関係を確認します。口座に残っているからというだけで、すべてを受取人へ配ってよいと考えないでください。
管理会社が敷金を保管しているのか、遺言者が受け取っていたのかによって、現物や帳簿の確認先も変わります。契約書に記載された金額と実際の受領額が違う場合は、受領証や過去の精算資料を探します。
敷金・保証金・礼金を名前だけでまとめない
契約には、敷金、保証金、礼金、償却など異なる定めがある場合があります。名称だけで一律に返還不要・返還必要と決めず、契約の条件と実際の取扱いを確認します。税務上の収入に当たるかについても、返還不要となる部分や時期などの条件が関係します。
引継ぎ一覧では、「預かった総額」「既に返した額」「精算が未確定の額」「誰が保管しているか」を分けます。退去予定者がいる場合は、その日程と精算の担当者も記載すると、引継ぎ直後の行き違いを減らせます。
管理会社には、死亡と今後の連絡体制を早めに伝える
管理会社がある場合は、遺言者が亡くなったこと、遺言執行者の指定、現在確認している手続きを連絡します。管理委託契約、送金明細、預り金、修繕の予定、入居者からの相談など、引継ぎに必要な資料を確認してください。
管理契約の名義変更や継続の手続きは、契約の内容と権限に応じて確認します。執行者が窓口になったことだけで、管理会社との契約を自由に解約できる、報酬条件を変更できると考えないようにします。
入居者への連絡は、確認できた事実と必要事項に絞る
家賃の振込先を変更する場合は、新たな受領先とその根拠、変更時期、旧口座への入金があった場合の取扱いを確認します。相続関係や遺言の内容を必要以上に入居者へ知らせず、誰へ問い合わせればよいかが分かる案内にします。
送付する案内が管理会社と食い違わないよう、連絡の担当と日付を合わせます。入居者にとって突然の口座変更は確認が必要な情報です。従来の管理会社等の連絡先を通じて確かめられるようにし、説明のない送金依頼だけを出さないでください。
修繕・保険・借入れ・税金は、期限と負担を確認する
設備の不具合や漏水など、引継ぎを待てない問題が発生することがあります。緊急性のある保全と、大規模な改修や契約変更を分け、執行者としてできる行為、所有者等の判断が必要な事項を確認します。実施した対応には、内容、理由、費用、連絡先の記録を残してください。
借入れの返済や担保、火災保険等の契約、固定資産税、共用部分の管理費なども確認します。遺言者の口座から自動で引き落とされていた支払いがある場合は、口座の状態と支払方法を関係先へ問い合わせます。旧口座を使い続けることを前提にせず、正式な手続きへ切り替えます。
必要な支出を、証拠とともに整理する
執行に必要な費用、物件の維持費、受取人が引継ぎ後に負担する費用を、同じ欄へまとめないようにします。民法第1021条の執行費用の取扱いも踏まえつつ、個々の支出の負担者と根拠を確認します。執行者が立て替えた場合は、領収書、支払日、立替者、精算状況を残します。
見積りと請求書、支払い済みの領収書は、それぞれ別の段階の資料です。見積額を支払済みとして集計したり、同じ費用を管理明細と領収書で二重計上したりしないよう照合します。
不動産登記と税務申告は、専門家への引継ぎを組み込む
登記名義の変更や遺言による権利移転の手続きは、遺言の文言と取得者に応じて司法書士等へ確認します。遺言執行者の権限、提出資料、申請する人を整理し、貸主変更の案内との前後関係も確認します。登記情報を見ずに、物件の所在地だけで手続き対象を決めないでください。
税務については、死亡までの所得、相続で取得した財産、死亡後に生じた家賃収入を分け、申告義務者と期限を税理士へ確認します。遺言執行者が財産目録を作ったことや、管理会社が家賃明細を出していることだけで、税務申告まで完了したとはいえません。
担当が複数になる場合は、同じ資料の取得を誰が担当するかを決めます。戸籍、遺言書、登記情報、評価資料等を共有する際も、原本が必要な先、写しで足りる先、返却先を整理すると作業を進めやすくなります。
引継ぎ日を決め、金銭・鍵・原本を渡した記録を残す
引継ぎの基準日を決め、家賃、未収、前受け、敷金、未払費用をその日までの記録で照合します。日をまたぐ請求や入金について、どちらが処理するかを確認してください。後から入金が判明した場合の連絡方法も決めておくと、引継ぎ後の取りこぼしを防ぎやすくなります。
鍵は、物件、共用部、設備等のどの鍵かを一覧にします。入居者が使用している部屋へ、引継ぎの確認を理由に無断で入らないようにしてください。書類の引渡しには、原本か写しか、欠けている資料があるかも記載します。
完了報告には、渡した財産・金銭・書類と、残っている確認事項を示します。未収家賃の交渉や未確定の税務などを引き継いだ場合は、何が未了なのかを明記し、すべて解決したかのような報告にしないことが大切です。
引継ぎ前後の入金を取りこぼさないための照合例
説明用の仮の例として、月末を引継ぎの基準日にし、翌月から新しい受領先へ家賃を振り込んでもらう場合を考えます。案内前に旧口座へ翌月分を振り込んだ人や、前月分の未収を翌月に支払う人がいると、入金日だけでは区分できません。対象月と部屋を確認して、どちらが精算するかを決めます。
旧口座と新口座の記録を、同じ期間で照合できるようにします。入居者へ二重に請求しないためにも、管理会社が把握した入金と、実際の通帳の入金を突き合わせてください。振込名義が契約者と違う場合は、金額が一致するだけで別の人の家賃へ割り当てず、確認してから記録します。
一件の入金に残す情報
物件・部屋/契約者/対象月/入金日/入金先/金額/確認資料/引継ぎでの精算先
返金や過入金がある場合も、勝手に翌月分へ充当したり、別の部屋の未収と相殺したりしないようにします。契約や当事者の確認が必要なため、管理会社や専門家へ扱いを相談します。金銭の動きを修正した場合は、修正前の記録と理由を残してください。
退去や更新が重なるときは、担当を先に決める
引継ぎ時期に退去が予定されている場合は、立会い、鍵の返却、原状回復の確認、敷金精算について、誰が窓口になるかを整理します。費用の負担や請求に争いがあるときは、通常の事務連絡と分けて弁護士へ相談してください。執行者が一方的に精算額を確定することは避けます。
更新の案内が既に出ている場合は、案内内容、回答状況、更新料等の入金、契約書の回収状況を確認します。新旧の担当者が別々の条件を伝えないよう、変更する権限と必要性を確認してから連絡します。
管理会社から受け取った引継ぎ一覧も、そのまま確定資料とせず、契約書や入金記録と照合します。確認できない項目は、未確認の理由と担当者を残して次の管理者へ渡します。何が分かっていないかを共有することが、引継ぎ後の再調査や二重対応を減らします。
賃貸物件を引き継ぐ遺言執行でよくある質問
執行者になったら、入居者対応もずっと担当しますか?
遺言執行の任務と、その後の賃貸管理は別です。必要な引継ぎまでの対応、受取人や管理会社の業務、契約関係を確認します。
家賃が執行者の口座に入ったら、執行者の所得ですか?
受領口座だけで判断しません。遺言、財産の取得関係、家賃の対象期間等を整理し、所得の帰属を税理士へ確認します。
敷金は現金として相続人へ分けてよいですか?
返還や精算が必要な金銭を含むため、契約条件と負担関係を確認せず分配しないようにします。誰が保管し、誰が引き継ぐかを一覧にします。
滞納家賃や退去の問題を行政書士へ任せられますか?
紛争の交渉や明渡し請求は当事務所の手続き支援の対象外です。記録を整理し、弁護士へ相談します。
何を準備して手続き支援へ相談すればよいですか?
遺言書、物件一覧、契約書、家賃・敷金の記録、管理会社の資料、現在困っている点をまとめます。争いのない範囲での資料整理や財産目録・報告書等の準備について、必要な支援と費用を確認できます。
遺言執行の資料整理・書類準備を相談するには
一人で準備を進めにくい場合は、必要な作業を整理して、任せる部分とご本人が対応する部分を決めます。大倉行政書士事務所では、遺言執行者に指定された方の、争いのない範囲での資料整理や財産目録、通知・報告書等の準備を支援します。ご本人が執行者の立場を維持する支援と、専門家が新たに執行者へ就任することは別です。
初回相談は無料です。部分的な支援の費用は、資料の量、相続人・財産の状況、依頼する作業を確認して見積ります。証明書等の実費や、他の専門家へ依頼する登記・税務・紛争対応の費用は分けて確認してください。遺言書と手元の資料、未完了の作業が分かるメモがあると、相談の範囲を整理しやすくなります。
対応範囲と相談方法は、遺言執行者に指定された方の手続き支援をご確認ください。
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